エログロサスペンス『殺戮にいたる病』のネタバレなしの感想

ミステリー、サスペンス小説
1992年発表 著者:我孫子武丸
小さな出来事をきっかけに始まる不可解な事件と、それに関わる人物たちの心理と関係性が積み重なっていく物語です。表面的にはミステリ/ホラーの体裁をとりつつ、読むほどに「語り手」や描写の構造そのものが手がかりになっていく、叙述トリックを大きな軸にした作品です。読後に前半を読み返したくなるタイプの一冊としてしばしば挙げられます。

裏表紙より
永遠の愛をつかみたいと男は願った――
東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔! くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。

3人の視点で物語が進行
連続猟奇殺人のお話なのですが、犯人は冒頭から蒲生稔という人物だと分かっています。
この蒲生稔視点は中々どぎつい描写が続きます。
最初は爽やかでありながら、どこか冷めたような感じの、いわゆる秀才系のような印象だったのですが、一回目の犯行の瞬間から内に秘めたサイコパスな部分が顔を見せ始めると、犯行を重ねるごとに、その異常性がエスカレートしていきます。
その異常な性癖が何処から来たのかが紐解かれていきます。

犯人の蒲生家の主婦である蒲生雅子視点。息子への歪んでいるとも見える深い愛情から、息子の留守中に部屋を探り、小さな違和感を発見すると、そこから徐々に不信感が募り始め、息子が殺人犯なのかも?と思い始める描写が、序盤は母親であるなら当然というか、こういう人もいるかもな?くらいの印象なのですが、徐々に壊れていきます。

定年退職した元刑事、樋口武雄視点。奥さんを病気で亡くし、生きる希望を失っています。
被害者の一人である島木敏子は奥さんの病院の看護婦で、奥さんの死後、憔悴していた樋口を気にかけて自宅まで来て食事を作ったりと何かと気にかけていた様子で、世話になったと思っている。
そういった経緯で事件に関わっていくのですが、島木敏子が樋口の事を男性として見ていたことを気づいていたり、内に秘めた欲望が見え隠れしたと思えば、元刑事らしく堅物な感じで理性を保ったりと、人間臭い感じが好感が持て、先の展開が一番気になった人物です。
この樋口視点のもう一人の登場人物である島木敏子の妹、島木かおるも中々の闇を抱えており、樋口との年齢差を考えると少し歪な危うい空気の中、2人で事件を追っていきます。

この3つの視点が終盤に収束していくのですが、視点の切り替えによる思考の分散や、時間軸の微妙なズレも相まって、終始違和感が付き纏います。何か腑に落ちないというか、わざとテンポをずらされている感覚というか。
視点が一つに重なる瞬間に、「あれ?」「これは誰?」「ということは?」「いやいやそんなはずは…」と混乱した後に、違和感の正体、というか意味というか、文章の巧みさが分かるのですが、「やられた!」という感想でした。
終盤の一気に読ませる勢いのある展開は圧巻です。

序盤では、あまりのエログロさ加減で、二度は読まないだろうと思っていたのですが、今はもう一度読み返し、色々と確認したくなっています。

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